日本建築の天井には
- 化粧屋根裏
- 格天井・小組格天井・折上格天井
- 竿縁天井・猿頬天井
- 網代天井
など,実に多種多様な構造や様式が存在しており、それぞれの種類によって空間の質や格式をコントロールしています。
この記事では,奈良の和風建築を題材に、日本建築の天井仕上げの種類を解説します。
目次
概要
現代建築では当たり前に存在している天井ですが、天井を張り,屋根と居住空間の間に小屋裏空間を作る建築は、日本の伝統建築では意外に少数派。大半は小屋組を露出するものがほとんどでした.
例えば「寝殿造」に代表される平安貴族の住まいでも,多くの場合天井がなかったとされています.
貴族の建築でそうなのですから,財産を持たず、また室内で火を起こすこともある庶民の家に天井など、おおよそあるものではありませんでした.
古代から中世にかけて天井のある建築といえば,もっぱら寺院建築のみでした.
たとえば最古の木造建築とされている法隆寺金堂では,梁や桁の間に格子状に木を組み,その上に板を張る組入天井がみられます.
さらに時代が進み中世に入ると、骨太な印象の格天井が登場します.
組入天井と同じく格子状に木材を組む格天井ですが,組入天井と違って構造材の下に天井を張るため天井高が低く,小組格天井・折上格天井・鏡板格天井・板違格天井・張付格天井といった,より自由で複雑な天井設計が可能となりました.
ちなみにこうした天井に対し、天井を張らない場合を指して化粧屋根裏と呼びます。前述の通り、日本建築の多くはこの化粧屋根裏なものがほとんどでした。
一方で住宅建築に天井が張られるようになり出したのは平安末期から鎌倉時代でした。現代では非常に馴染みのある竿縁天井も、一般化したのいわゆる書院造と呼ばれる建築が登場してからのことです.格式を重んじる武家社会では,床の高低や天井の仕上げによって位を表現する空間技法が発達し,前述の格天井やその派生である小組格天井や折上格天井,あるいは猿頬天井・網代天井などの多様な天井が、住宅にも積極的に用いられるようになります.
近代に入ると西洋からの新しい建築技術や建築様式が流入します.
しかしそれは必ずしも和風建築にとって逆風ばかりではなく,例えば寺院風の様式を公共建築に取り入れた近代和風建築が建てられたり,モダニズムの思考を取り入れた近代数寄屋建築が文化人や財界人によって建てられるなど,和風建築に新たな可能性も生まれ始めることとなりました.
西洋の生活習慣が定着し家具や着物や食文化が変わっても,天井はその影響を受けにくいです.
そのため近代和風建築においては,「床は西洋風,壁は和洋混合,天井は日本趣味」という形での折衷スタイルが,非常に多くみられるようになります.
寺院建築の天井
日本建築の中でも比較的早い段階で天井を取り入れたのが寺院建築でした。
化粧屋根裏とは
水平な天井を持たず、屋根の構造材をそのまま室内に露わにしたものを、化粧屋根裏と称します。建築用語では構造材を多い隠す材料を「化粧材」と呼びますが、屋根裏がそのまま化粧材であることからこのような名称となっています。
天井を張らないことから一見安上がりに感じられますが、通常は整形する必要のない梁や構造材にも鉋をかけて美しく加工を施す必要があることから、場合によっては天井を設けるより手間暇がかかることもあります。
近世以前の多くの建築は、この天井を張らない化粧屋根裏でした。
奈良県ではとくに東大寺南大門の架構を露わにした圧巻の屋根裏などが有名でしょう。

近代建築では、コスト・見た目・環境性能などの理由から、通常大規模な木造建築で構造部材を露わにすることはありません。
しかし後述の通り数寄屋建築の流れを汲む和風邸宅建築においては、屋根裏の材をそのまま仕上げとする手法が取り入れられています。
組入天井とは
組入天井とは、梁や桁といった構造材に格子の木組みをのせ、板をかぶせる天井です。
一見後述の格天井と同じに見えますが、格天井が梁や桁といった構造材とは完全に独立した天井であるのに対し、組入天井は構造材に直接天井を乗せており、その分天井高が高くなります。
水平な天井としては最も古くから見られる屋根であり、法隆寺や唐招提寺の金堂などで見ることができます。

以降、中世までの寺院建築ではたびたび用いられましたが、近代和風建築においては後述の格天井の方が遥かに多用されました。
格天井(折上格天井・小組格天井)とは
格縁天井ともいわれる,格子状に木材を組む伝統的な天井のことです.
構造材に直接格子を組んだ前述の組入天井と違い、格天井は構造材から格子をぶら下げて板を張る吊り天井であるため、相対的に天井が低くなりやすいです。
また見た目の上でも、一本一本の材が太く、格間(格子同士の隙間の面)が広い豪快な印象のものが多いのも特徴です。
中国や朝鮮などにも仕様が確認でき,寺院や御殿などの大空間で用いられる非常にフォーマルな天井仕上げですが、その登場は平安時代以降からと見られている新しめの様式です。
また,構造や仕上げによって細かいバリエーションがあることも,格天井の特徴です.
例えば天井の一部を一段高くすることを「折上」と呼びますが,湾曲した格子材(支輪)によって格天井の中央を持ち上げる折上格天井や,その中心をさらに持ち上げる二重折上格天井は,二条城二の丸御殿内「大広間」など,非常に格式の高い空間に用いられる技法です.
あるいは,格子の間にさらに細かい格子材を入れる小組格天井も,施工に手間がかかる分くらいの高い人の居室などに用いられました.
格式を重んじ,空間によって身分を表すことを重視した武家社会らしい,天井の使い方と言えるでしょう.
奈良ホテル
近代和風建築の最高峰に位置付けられる奈良ホテルでは,ホールや食堂はもちろん客室から玄関の車寄せに至るまで,あらゆる空間に格天井(しかもそのほとんどが折上格天井)が用いられています.
日本聖公会奈良基督教会堂
また,日本聖公会奈良基督教会堂(および愛染幼稚園舎)でも,その空間の大部分の天井が,細やかな組入格天井によって構成されています.
旧JR奈良駅駅舎

変わったところでは旧JR奈良駅駅舎も,天井の中心部を大胆に折り上げる格天井で,迫力のある空間を演出しています.
もっともJR奈良駅駅舎は木造建築ではなくSRC(鉄骨鉄筋コンクリート)造なので,あくまで「格天井風」と表現するのがただしいかもしれません.
邸宅建築の天井
次に、武家屋敷や茶室建築など,住宅建築から発展した天井様式についてまとめます.
竿縁天井・猿頬天井とは

格天井ほどフォーマルではなく、しかし後述の網代天井などに比べれば格式の高い天井仕上げとして、竿縁天井が挙げられます。
薄板を羽重ねに並べ、野縁と竿縁と呼ばれる棒材で挟み込み、天井からつるす吊り天井の一種で、住宅建築の和室のほとんどはこの仕上げであると言っても過言ではないほど、現代でもポピュラーな構造と言えるでしょう。
また、竿縁材の角に60度程度の角度で面取りを施し、より天井の印象をシャープにしたものを「猿頬天井」と呼びます。
断面が猿の頬のように下すぼみになることから名付けられたこの形式は、作成に手間がかかる分、一般の竿縁天井よりやや格式が高い空間に用いられました。
佐保会館
竿縁天井自体は現代住宅の和室などでも幅広く見ることができる天井です。一方、普段なかなかお目にかかることのない猿頬天井については、奈良県では奈良女子大学同窓会施設である佐保会館の和室に採用されています。
目透かし天井

天井を板材で仕上げる際に、板材と板材の間にわずかに隙間を設ける張り方を目透かし天井と呼びます。
目透かしといっても、隙間から屋根裏がのぞけるわけではなく、裏面から隠し廻り縁とよばれる木材が当てられています。
竿縁天井と並んでよく用いられる和風住宅建築の天井仕上げであり、木材でなければ現代建築でもよく見られる手法と言えるでしょう。
網代天井とは

網代とは、葭・竹・杉・檜・椹などを薄く削って作った板(枌板)を互い違いに編み合わせた素材のことで、その名の通り魚をとる際に網がわりに用いられました。
この網代を天井に張り付けて仕上げとしたものが網代天井です。
このように数寄屋建築には時折、農民や庶民の生活文化を模した建材が用いられることがありました。
奈良県では、依水園や吉城園をはじめ、数寄屋風の邸宅建築で茶室をもつ建築であればその大部分で見つけることができます。
筵天井・蒲天井とは

蒲、真菰などの植物繊維を編んだ筵を張った天井を筵天井と呼びます。
とくに蒲の筵を張った天井を蒲天井とよび、茶室で主人が座る「点前畳」の天井などによく用いられています。
その他
その他、天井の種類や構造、関連用語を紹介します。
屋根構造に関する単語

- 平天井:天井面が水平になっているもの
- 落天井:天井に高低をつけた場合の、低い方の天井。より身分の低いものの空間であることが多い。
- 掛込天井:庇の傾斜が室内にも連続しており、屋根裏の構成材を室内に見せている天井。あるいは単に、傾斜のついた天井のこと。

- 舟底天井:天井の中央が両端より高く、三角形に盛り上がった天井。その名の通り、舟底をひっくり返して屋根にかぶせたような見た目をしていることから。
仕上げに関する単語
- 鏡天井:杢目を活かした一枚板の天井。鎌倉以降の禅宗様建築に利用された。
- 簾天井:葭、萩、竹などを簾編みにしたものを張った天井。
- 根太天井:根太とは、床板を支える構造材のこと。根太天井とは、二階の床下がそのまま一階居室の天井になっていること。
- 大和張り天井:板材を一枚ごとにずらし、少しずつ重ねて張る天井のこと。

その他
- 廻り縁:天井と壁の境目に取り付ける枠のこと。