和風建築の屋根用語のページでも紹介した通り、切妻造入母屋造の屋根の側面には、破風の内側に「妻面つまめん」と呼ばれる三角形上の立面が存在し、

など、妻面を装飾する「妻飾つまかざり」いくつかの技法が存在します。

この記事では奈良の和風建築を題材に、妻飾について解説していきます。

妻飾とは

妻部分の形状や構造は、日本建築の印象を大きく左右する重要な部分であり、古来よりさまざまな装飾が施されてきました。

古代では構造材をそのまま妻飾としていたのに対し、建築技術の発達した中世以降は架構と独立した装飾を施すようになります。

豕扠首

豕扠首いのこさすは、扠首竿さすざおと呼ばれる左右二本の木材を人の字形に組み、中央の合掌部を扠首束さすづかと言う短柱で支えるもので、上述の竪横式と同じくらい古くから利用されてきた妻飾りです。
シンプルで力強い直線が特徴の豕扠首は、奈良の古建築の中では法隆寺聖霊院(鎌倉時代)などに見られます。

法隆寺聖霊院 (画像出処:Wikipedia


近代建築では、奈良ホテル佐保会館などの和風建築の妻部分に用いられています。

虹梁蟇股・二重虹梁蟇股

その名の通り、虹梁こうりょうの上に蟇股かえるまたを載せた意匠です。
虹梁については下記のページでも紹介していますが、虹のように上に膨らんだ梁を指す単語です。

もともとは屋根の重みを支えるための虹梁ですが、これを妻面の壁に露出することで装飾として利用するケースが存在します。
特に、法隆寺東院伝法堂のように柱→虹梁蟇股虹梁蟇股→屋根と、二回重ねた物を二重虹梁蟇股にじゅうこうりょうかえるまたと呼びます。

東大寺東院伝法堂(画像出処:Wikipedia

虹梁蟇股も、奈良時代の頃から仏教建築を中心に用いられた部材であることから、豕扠首に比べて古風な仏教建築の印象が強い妻飾では無いでしょうか?

近代建築の中では、建築史家である関野貞設計の奈良県物産陳列所が、この二重虹梁蟇股に近い意匠を持っています。