奈良女子高等師範学校本館(現奈良女子大学記念館)|軽やかな奈良のチューダー建築

奈良女子大(wikiより)

柱や梁を露出させその間を漆喰で埋めるという工法は、日本建築では一般的な技法であるが、西洋にも似たような手法は存在する。「ハーフティンバー」と呼ばれる様式で、イギリスの絶対王政が最盛期を迎えていた16世紀ごろに発生・流行したとされる。
イギリス建築がもつ気高さと、しかしどこか田舎めいた温かみのある牧歌的な雰囲気は明治の日本でも多くの建築家を魅了し、特に旧東京医学校本館や岩手大学農学部旧本館など戦前の学校建築で多用された。だから日本人にとってハーフティンバーの大規模建築は、どことなく「学校っぽい」イメージがあるかもしれない。

さて、日本に2校しかない国立の女子大のひとつとして、お茶の水女子大学と並ぶ名門女子大である奈良女子大学。2022年には、国内の女子大学としてはじめて工学部を開設するなど、奈良県内で最も注目を集めている教育機関の一つであるが、その旧本館もまた、どことなくイングランドの風薫るハーフティンバー様式の洋館である。
真っ白な漆喰壁と淡い緑色の木材のコントラストは、彩度の低くなりがちな奈良の近代建築の中でもとりわけ目を引く存在である。重苦しすぎず、軽薄すぎもしない。建設当初の構造・設えを多く残すなど、文化財的価値も高い。

基礎データ

現名称奈良女子大学記念館
旧称奈良女子高等師範学校本館
所在地奈良県奈良市
設計者山本治兵衛
構造木造2階建
竣工年明治42年(1909年)
利用状況貸切有
見学条件期間限定公開あり
奈良女子高等師範学校 基本データ

施設利用案内

建設当初は事務所機能及び大学講堂として設計された建築であるが、現在は学外の人間も利用できる展示室・講堂として利用されている。

利用

同学の「奈良女子大学記念館使用規則」に基づき、学外の人間の利用・貸し切りも可能。
(利用の20日以上前の申し込みにて)

見学

外観については、大学敷地内ではあるが通年で公開されている。

また内部の公開については、例年春秋2回の一般公開日が一週間程度設けられている。

ただし2021年以降、コロナの影響により原則公開イベントが開催されていないため、詳細については大学公式HPをご参照ください。

成立背景

明治41(1908)年 奈良女子高等師範学校の設置

国内ではお茶の水女子大学についで、二番目となる女子高等師範学校として、勅令第68号をもって設置。

明治42(1909)年 本館、および1~4号館 竣工

昭和24(1949)年 「国立奈良女子大学」に改称
平成2(1990)年  建物名称が「記念館」に

昭和55(1980)年に本部管理棟が、昭和58(1983)年に講堂がそれぞれ新築されたことにより、大学本部・講堂としての機能が移管される。

平成6(1994)年 耐震改修工事

同年には同大学守衛室などとともに、国の重要文化財に指定。

建築解説

全体像

  • 敷地はかつて奈良奉行所があった跡地を利用して建てられる。
  • 木造二階建て。基本的にはシンプルな矩形平面だが、建物正面には車寄せを付すほか、一階南側面に平屋建の旧事務局長室が増築されている。
  • 一階は南北に伸びる廊下を通し両端に二階へ通ずる階段室を持つ。廊下の両サイドは校長室・応接室・事務室など左右に大小7室がならぶ中廊下式となっており、当初校長室であった部屋を展示室にするなど、一部利用方法が変更されている。
  • 二階は全体を一室とする講堂となる。
  • 建設当初は正門から本建築までのアプローチを取り囲むように、本建築と類似の意匠を持つ一号棟から四号棟までが建設されていた。

立面

  • 外観は当時学校建築に度々須いられたハーフティンバー様式。二階腰壁までを板張り、それから上を漆喰塗りとし、縦長窓(単窓・連窓・三連窓にわかれる)をリズミカルに配置する。
  • 露出している柱や梁のように見えるものは付梁・付柱といった化粧材であり、構造上の役割を果たしているものは建物四隅の4本の柱のみとなっている大壁づくりである。木材部はすべて淡い緑色のペンキ仕上げ。
  • 西洋風縦長窓の上下には長押を取り付け壁面を正方形状に区切り、そこに丸形・X字形、十字形など独特な模様をあしらう。
  • 基礎部分はイギリス積の煉瓦構造。

屋根

  • 寄棟造りの桟瓦葺。軒の出が750mmと極めて小さい。
  • 建物正面中央に切破風状の切り上げ屋根を持つち、妻部分は曲線的なヘリンボーンの斜材で装飾されている。
  • 後の平側に2箇所ずつ、左右の妻側に1箇所ずつの計6箇所に明かり取りのドーマー窓を設ける。
  • 棟の中央に銅板瓦棒葺きの塔屋を設けるが、鐘楼などのように鐘を儲けるわけではなく、装飾的側面が強い。壁面はヘリンボーン模様の板張り。建物との接続部分にはハッチが設けられており、二階小屋裏から内部に出入り可能。
  • 大棟の両端にはアカンサス模様の飾り瓦を戴く。この棟飾りは一階車寄せにも設けられている。
  • 小屋組みはクイーンポストトラスを採用し、2階講堂の1600mmスパンの無柱空間を実現している。

内装

  • 床面は、ヒノキ板張りの上にリノリウム仕上げを基本とする。
  • 壁面仕上げは、窓下高さを境目に腰壁と上部壁に分かれており、上部が漆喰塗、腰壁はペンキ仕上げの木製パネルがはめ込まれている。
  • 天井は小幅の板張り天井で、竿縁によって升目状に区切られる。部屋中央(もしくは四隅)には透かし模様が施された天井飾りが設けられることが多い。
  • 二階講堂は天井中央が折上天井となっており、本来屋根裏に隠れるべき小屋組みトラスの下弦が4本露出している。
  • 玄関両開き戸、受付引違い障子、廊下と室内を繋ぐ唐戸、天井採光のガラス窓から物入れの片開き戸まで、当時の木製建具が多く残されている。また、講堂内の木製長椅子や天井から吊るされたシャンデリアなど、オリジナルの家具・照明も数多く現存しており、現在も利用されている。

守衛室

  • 八角柱を4つ組み合わせたような、十字の平面を持つこぶりな建築。
  • 鉄板葺屋根のいただきには、本館に用いられているのと同じアカンサス模様の飾り瓦が乗る。

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