茅葺・柿葺・檜皮葺とは?|奈良巡りで学ぶ、和風建築の屋根素材(植物素材編)

この記事では,

  • 茅葺かやぶき
  • 檜皮葺ひわだぶき
  • 柿葺こけらぶき

などの植物系の屋根材の種類について、奈良の和風建築を題材に解説していきます。

概要

日本建築の屋根といえば,瓦屋根をイメージする方が多いかもしれません.
しかし重くて高価な瓦屋根は,地震の多い日本では採用が難しい面も多く,本格的に普及したのは江戸時代の後半からでした.

代わりに広く用いられていたのが,イネ科の植物やヒノキの樹皮といった植物性の素材です.
こうした屋根材は,古代より庶民の家に用いられたのはもちろん,中には宗教施設や貴族の家にも用いられるなど,様々な種類や様式が存在します.

あらゆる屋根素材のうち,もっとも原始的な屋根は茅葺かやぶき屋根であるとされています.茅とはアシやススキなどのイネ科所物をまとめて指す言葉で,わらよりも油分が多いことから雨を弾きやすく,またどこにでも自生することから,世界中の地域で古来から利用されています.

その後,木材の加工技術が発展するにつれ,板材を用いた板葺が登場し始めます.しかし板葺きは他の屋根材に比べて腐敗しやすく,また日本建築は屋根に独特の曲線を持たせる[1] … Continue readingことから、現存する重要文化財クラス以上の建築としてはあまり採用されていません.

そして平安時代には,杉や檜を2,3mm厚に加工して屋根に敷き詰める柿葺こけらぶきや,檜の樹皮を剥いで材料とする檜皮葺ひわだぶきが登場し,板葺きにかわって寺院から邸宅建築に至るまで幅広く利用され始めました.

茅葺とは?

吉城園 離れ茶室 茅葺屋根(岡田撮影)

白川郷でおなじみの茅葺屋根ですが,縄文時代の竪穴住居から昭和後期の農村にいたるまで利用された,非常に息の長い屋根材です.
油分を多く含むため雨には強いものの,火災や台風に弱く施工やメンテナンスに大きな労力がかかることから,現在ではほとんど利用されることがなくなってしまいました.

格式としてはあまり高くない茅葺屋根ですが,数寄屋建築が流行し「粗末な小屋」をモチーフとした茶室が作られ始めると,皇族・士族や豪商の邸宅にも茅葺き屋根の離れや茶室が作られるようになりました.

奈良県立大和民族公園

奈良県下で茅葺き屋根といえば,大和郡山市にある奈良県立大和民俗公園(外部リンク)がまずあげられるでしょう.約26.6ヘクタールの敷地には,国中・宇陀・東山・吉野地方の伝統的な家屋が多数移築・展示されており,そのほとんどに茅葺屋根が採用されています.

大和民族公園 旧岩本家住宅(画像出典:wiki)

吉城園・依水園

また,近代建築の事例としては,奈良公園に隣接する吉城園の離れ茶室や,依水園の清秀庵・氷心亭・柳生亭といった数寄屋風の茶室建築に,茅葺屋根が用いられています.

奈良県立戦勝記念図書館

公共建築には通常用いられない茅葺きですが,奈良県の近代和風建築においては稀に利用が確認されています.

例えば現在では本瓦に葺き替えられている大和郡山市民会館(旧:奈良県立戦勝記念図書館)は,奈良公園敷地から現在の大和郡山市に移築されるまでの一時期,植物系の屋根素材であったことが写真資料から判明しています.

建設当初の戦勝記念図書館(奈良名勝写真帖より)
昭和43年頃_奈良県立図書館|撮影:吉田守(県立図書館より)

写真だとわかりにくいのですが、茅葺きらしく見られます。

このように奈良県においては,近代建築や公共建築であっても檜皮葺屋根が利用されていたケースがあったことが伺えます.

檜皮葺とは?

檜皮葺を施された、春日大社拝殿屋根(図版出処:岡田撮影)
檜皮葺を施された、春日大社拝殿屋根(図版出処:岡田撮影)

檜皮とは,秋から冬にかけて剥ぎ取ったひのきの樹皮のことで,これを一尺五寸から二尺(45-60cm)程度の長さに切り分けて,何層にも重ねた上で竹針で固定したのが檜皮葺ひわだぶきです.

寺院や行政施設のなかで格式の高い建築には本瓦が採用されましたが,檜皮葺は主に神社の本殿や皇族の邸宅建築の中で特に格式の高いものに用いられました.

国外には類のない特殊なものですが,奈良県下でも春日大社本殿や室生寺五重塔など,非常に多くの古建築で採用されています。

杮葺とは?

桂離宮 中書院(画像出処:wikiより)
桂離宮 中書院(画像出処:wikiより)

こけら(※かきとは微妙に字が異なるので注意)とは薄く切った板材のことで,そんな一枚10×30程度の薄板を敷き詰めて釘で固定するのが柿葺です。
「板とは呼べないほど薄い木片」を板張りにした屋根であれば、材となる樹種を選ばず杮葺とよばれますが、多くの場合はヒノキが採用されています。

(なので「檜皮葺と杮葺の違い」は、ヒノキの樹皮を使うのが檜皮葺、薄く削った板材を使う(ヒノキに限らない)を使うのが杮葺き、という言い方ができるでしょう。)

非常に歴史の長い工法であり,京都では金閣寺(消失前)や銀閣寺,桂離宮古書院など、かずかずの国宝や文化財にも利用されています.
「こけらおとし」という単語の語源も,竣工後に屋根に残っている柿を払い落としたことに由来するとされています.

ただこれも,近代以降の建築にはほぼ使われていない手法といえるでしょう.

References

References
1 雨の多い日本では,屋根の上部は傾斜を急にして雨漏りを防ぐ必要がある.一方で屋根の先端では窓や縁側から雨が侵入を防ぐために軒を伸ばす必要があり,そのためには急勾配の屋根は不都合である.屋根の頂部は急勾配に,端部ではなだらかな傾斜にする都合上,日本建築の屋根は曲線や折れ線にならざるを得ない.

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