本瓦・桟瓦からスレート瓦まで|奈良巡りで学ぶ、和風モダン建築の屋根素材(鉱物系素材編)

日本建築の屋根といえば,やはり瓦屋根が印象的です.
そんな屋根瓦のうち,建築史を語る上で重要となってくるのは,以下の4つです.

  • 本瓦
  • 桟瓦
  • 洋瓦
  • スレート瓦

この記事では,奈良の和風建築を題材に,日本建築の屋根材の種類を解説していきます。

概要

日本における瓦の始まりは,西暦588年に仏教と共に百済くだらから輸入されたものが契機とされており,奈良・平安時代には仏教建築のみならず公共建築や宮殿にも用いられ始めました[1]以下特記なき場合,出典は,姫路市電子じばさん館「瓦の歴史」によった.閲覧は2020年8月4日
また江戸時代末期には「桟瓦さんがわら」が発明され,一般庶民の住宅にも徐々に用いられ始めます.(一方従来の瓦は「本瓦」と呼ばれる様になりました.)

そして明治の文明開化を迎えると,西洋から複数種の瓦(洋瓦)が,洋風建築のために輸入され始めました.
同時期には桟瓦を改良した「引掛桟瓦ひっかけさんがわら」も発明され,日本建築の屋根材の可能性は大きく広がり始めます.
また,現代住宅の屋根材として馴染む深い「スレート瓦」の原型が輸入されたのもこの時代でした.本稿ではこちらも解説します.

本瓦葺とは

本瓦は,最も古くから用いられている瓦の様式をさす建築用語です.

板を凹方向に湾曲させた「平瓦」をしきつめ,瓦同士の隙間から雨が入り込まない様に円筒を縦に割った様な「丸瓦」で隙間を塞ぐという,非常にシンプルな構成をしています.

東大寺大仏殿

当然格式も高く,東大寺大仏殿を始めとする多くの著名な仏教建築で用いられています.

東大寺大仏殿(画像出典:wiki)

しかし構造がシンプルな分無駄も多く,地震の多い日本においてはその重量が大きなデメリットとなっています.
実際に上記の東大寺大仏殿も,1915年(大正4年)に内部に鉄骨トラスを導入する大改修を行うまでは,屋根が目視で確認できるほど大きく歪んでいる状況でした.

明治43年ごろの東大寺大仏殿(画像出典:奈良県名勝写真帖より)

そのため本瓦は,格式を重視する仏教建築以外では,ほとんど使われない建材となりました.

鼓坂小学校

例外的な利用例として,東大寺敷地に隣接する小学校「鼓坂小学校」の校舎には,本瓦が用いられています.

奈良市鼓阪小学校(wikiより)

本建築はSRC造(鉄骨鉄筋コンクリート造)の近代建築ですが,周囲の奈良公園景観や伝統建築への配慮の結果,本瓦葺が採用されています.
(周囲の塀や門は桟瓦葺き.)

奈良県立戦勝記念図書館

また,現在は桟瓦葺きの奈良県立戦勝記念図書館(現:大和郡山市民会館)も,建設当時は本瓦葺きであったことが,当時の写真資料から確認されています.

建設当初の戦勝記念図書館(奈良名勝写真帖より)

桟瓦葺とは

平瓦と丸瓦,二枚を交互に並べる本瓦に対し,江戸時代に発明された「桟瓦」は,平瓦と丸瓦を合体した,軽量で安価な一枚瓦です.

特に明治時代初期に発明された「引掛桟瓦」は,大正末期に内務省によって仕様が奨励されたこともあり幅広く普及しました.
現代でも,最も利用されている瓦屋根と言えるでしょう.

旧奈良県庁舎

特に奈良の近代建築においては,長野宇平治による「旧奈良県庁舎」に使用されたことによって,「奈良ホテル」「奈良県物産陳列所」「奈良県立戦捷紀念図書館」など幅広い近代和風建築に用いられることとなりました.

洋瓦葺とは

文明開化を迎えた明治の日本には,新たに洋風建築の技術や意匠が輸入され始めました.
当然それは,西洋建築を作るための建材を作る技術も導入され始めることを意味しています.

例えば洋瓦では,横浜にて製造され始めたアルフレッド・ジェラールによるジェラール瓦(フランス瓦)が,その最初期のものと言えるでしょう.
後述するスレート葺のように板状の瓦である点に特徴があります.


さらに大正時代には,今度はスペインからスパニッシュ瓦が輸入されます.
日本の平瓦と丸瓦を一体化させたS字状の瓦で,並べたときの見た目もどこか日本の本瓦に似ています.

いずれも共通して

  • 空気を十分に供給して焼き上げる「酸化焼成」で作られる
  • 赤みが強い
  • 一枚一枚の色合いにムラがある
  • 吸水性が高い

などの特徴を共有しています.

性質上,和風建築に用いられることはほとんどありませんが,奈良県内の有名建築でもいくつかの近代建築で採用されています.

喜多家住宅

例えば,国指定登録有形文化財にも登録されている「喜多家住宅」では,その主屋や蔵の屋根にフランス瓦が利用されています.

旧JR奈良駅駅舎

また,奈良観光の玄関口である「旧JR奈良駅舎」の屋根には,建設当初スペイン瓦が採用されていました[2]鈴木 博之「JR奈良駅舎の保存に関する要望書」日本建築学会(1469),pp92-93,2001
旧JR奈良駅舎はSRC造の近代建築でありながら,宝形造に木造建築風の装飾を施す寺院風の見た目をしています.
そこに本瓦とよく似た外観のスペイン瓦を用いることで,寺院建築のようでありながら西洋風という独特のバランスを生み出しているのではないかと考えられます.(現在はおそらく別の瓦に吹き替えられています).

スレート葺とは

スレートとは,本来は石英・雲母のような粘板岩を薄い板状に加工した石材のことでした.
その後,セメントにガラス繊維や合成繊維を練り込んだ建材が誕生し,こちらもスレートと呼ばれるようになります.
つまり「スレート」という場合は、時代によって二通りの意味が存在することになります。

ちょっとややこしいですが,人工スレート・化粧スレートなどという場合や,単に「スレート屋根」と表現する場合は,大抵後者のスレートを意味すると考えていいでしょう.

経年による劣化が大きくメンテナンスが必要ではあるものの,軽量で安価であることから現代の一般住宅にも幅広く採用されています.

奈良県下の有名建築では,奈良警察署鍋屋連絡所(現在は波型鉄板に葺替済み)や龍紋氷室奈良工場での利用が確認されています.

瓦宇工業所とは

瓦宇工業所とは、国宝や重文建造物の補修などにも多数実績を持つ奈良の老舗瓦企業です。
明治の頃から奈良の和風建築の屋根瓦を作り続けてきた歴史と伝統あるメーカーでしたが、残念ながら2014年に倒産となりました。

しかし、日本聖公会奈良基督教会堂の瓦屋根など、数多くの物件にその銘が刻まれています。

References

References
1 以下特記なき場合,出典は,姫路市電子じばさん館「瓦の歴史」によった.閲覧は2020年8月4日
2 鈴木 博之「JR奈良駅舎の保存に関する要望書」日本建築学会(1469),pp92-93,2001

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