照り起りとは?妻と平とは?|奈良巡りで学ぶ、和風モダン建築の屋根用語

このページでは,日本建築の屋根を語る上で頻繁に登場する

  • 照りと起り
  • 棟(大棟・隅棟・稚児棟・降棟)
  • 桁と梁(虹梁)

といった単語について、奈良の和風建築を題材に解説していきます。

照り・起りとは

日本建築の屋根 照りと起り(岡田作成)

日本建築(あるいはアジアの木造建築)の屋根を見てみると,屋根面が直線状なっているものは少なく,なだらかな曲線・曲面を描いているものが多いことに気が付きます.


この曲線が存在する理由についてはさまざまな研究がありますが、一般に日本の気象条件によるものであるとする説が有名です。
すなわち雨の多い日本建築では,窓や縁側から雨が侵入を防ぎ,柱材などを腐食から守るためにも,屋根の勾配をなるべく抑え,軒先を少しでも伸ばすことが求められます.
しかしあまりに屋根勾配を緩やかにしてしまうと,こんどは屋根の頂部では水が流れにくくなり,雨漏りの危険性が高まります.
結果,屋根の頂部は急勾配に,端部ではなだらかな傾斜にすることが最も合理的となったという考えです.

また照り・起りの具合は建物の印象をコントロールする側面も有り、建物の外観が誇る優美さや力強さに大きな影響をあたえます。


この曲面のうち、重力に従って垂れ下がるように下に反った屋根を「」,逆に重力に逆らって上に膨らむ屋根を「むく」と称します。

屋根の照り起りは,一般に下記のような傾向にあります.

  • 照り屋根:社寺・宮殿・城郭建築など多くの日本建築.
  • 起り屋根:関西圏の民家,近世住宅建築.
  • 直線屋根:現代住宅・古代の神社本殿(住吉大社・伊勢神宮など)

棟とは

日本建築の屋根 棟

むねとは、屋根と屋根の交わる稜線さす言葉です。

日本建築の屋根は通常2面以上の傾斜面によって構成されます.
そのため一つの建築の屋根には複数の峰・複数の接合部分が存在することになります.
こうした繋ぎ目の部分は雨漏りの原因にもなりやすく、また建築の骨格の中では終盤に組み上げる部分であることから、構造的にも機能的にも見た目の意味でも重要な意味を持つ部材となりました。

日本建築の屋根 棟の種類


特に,入母屋屋根のように複雑な構造を持つ屋根では,屋根面同士の接合部も増えることから,棟には下記の通りさまざまな種類が存在します.

  • 大棟おおむね:屋根の中で最も高い部分に当たる水平な棟.単に「棟」といえば,通常この大棟を指す.
  • 隅棟すみむね:屋根と屋根の境界線にあたる傾斜した棟.
  • 降棟くだりむね:大棟から屋根の傾斜に沿って真っ直ぐに積んだ瓦積の棟.

建物を1棟,2棟とかぞえることからも分かる通り,棟の存在は構造的にも象徴的にも重要な建築要素となっています.

また、大棟にあたる木材のことを棟木むなぎと呼びます。
棟木は建物で一番高いところにある構造材ですから、棟木の設置は建物の骨格の完成を意味します。
竣工後も建物が無事であるよう願って行われる祭祀「上棟式じょうとうしき」も、このタイミングで行われます。

虹梁とは

虹梁こうりょうとはその名の通り、虹のように上むきに反った曲線状の横架材のことです。
アーチ状の構造は見た目にも力強く、また直線灯で構成される木造建築のアクセントにもなり、仏教建築を中心に幅広く用いられてきました。
現存する最古の虹梁は法隆寺西院回廊のものであるとされています。

法隆寺西院回廊 画面左上、緩やかなアーチ上の部材が虹梁
(画像出処:Wikipedia

虹梁は近代以降、宗教施設以外にほとんど採用されなくなりました。

奈良県では、奈良県物産陳列所奈良県立戦勝記念図書館など仏教建築の要素を取り入れた木造建築が複数存在します。
こうした建築において虹梁は、その外観を特徴付ける装飾として、しばし利用されました。

妻飾りとしての虹梁については、下記の記事でも解説しています。

https://nara-atlas.com/naraarch-glossary/tsuma-decoration/

垂木とは

垂木たるきとは、勾配屋根を支えるために用いられる、棟木と軒桁の上に並べられる構造材です。
日本建築の軒裏を見ると、細い材木が等間隔に並んでいることを確認できますが、あれが垂木です。

重い瓦屋根を支えつつ、風雨から建築を守るために、日本建築の垂木は様々な進化を遂げてきました。

例えば、二層の垂木を設けた「野屋根」の登場はその一つです。
本来垂木は瓦屋根を支える一層でも十分なのですが、日本建築では10世紀ごろから垂木を二層に重ね、傾斜の急な外骨格としての「野垂木のだるき」と、傾斜の緩やかな内装材としての「化粧垂木けしょうたるき」を設けるようになりました。
(※野垂木は通常は完全に屋根裏に隠されるため、解体しない限り見ることができません。)

奈良県の室生寺金堂は9世紀の建築ですが、鎌倉末期の大改修において孫庇に大きな野屋根を掛ける構造が採用されるなど、中世における屋根架構の過渡期を象徴する建築です。

室生寺金堂 (画像出処:Wikipedia

後述する桔木はねぎが普及するに従い、垂木は少しずつ構造的な自由度も上がることとなり、その外観を特徴付ける装飾的な要素を帯び始めます。
実際現代においても軒の裏に等間隔に並ぶ垂木の存在は、建物の「和風っぽさ」を表現するアイコンとして、積極的に利用されています。

戦前には、旧JR奈良駅舎鼓坂小学校といった「鉄筋コンクリート造でありながら垂木のような外観を施す」建築も登場するなど、「木造建築らしさ」を強調する部材といえます。

旧JR奈良駅駅舎 軒裏に垂木を再現した凹凸が設けられている(岡田撮影)

桔木とは

桔木はねぎとは、12世紀の日本で発明された、屋根を支える建築技術・及びその部材の名前です。

柱や桁を支点、棟側の屋根の重みを力点とし、てこの原理で屋根先を持ち上げるこの原理は極めて合理的で、発明以来多くの木造建築に用いられてきました。

近代建築でも、奈良ホテル日本聖公会奈良基督教会堂などにおいて、その利用が確認されています。
(※桔木も通常は完全に屋根裏に隠されるため、解体でもしない限り見ることができません。)

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