奈良の庭園を巡るならば、志賀直哉旧居粉川家邸宅などが並ぶ高畑をめざすか、然もなくば奈良公園に隣接し和風大邸宅が立ち並ぶ水門町に足を向けるのが良いだろう。ここにとりあげる吉城園は、依水園入江泰吉旧居に並ぶ奈良の傑作和風庭園である。

園内には戦前に建てられた大規模な主棟や離れ茶室のほか、池の庭・苔の庭・茶花の庭からなる複数の庭園がしつらえられている。
2022年には世界的建築家である隈研吾によるホテル化計画も進行しており、奈良巡りの重要な拠点として期待が高まっている建築の一つでもある。

基礎データ

旧称正法院家住宅
所在地奈良市登大路町
施主正法院寛之
施工竹山仙吉
構造木造平屋建
竣工年大正8年(1919)
見学条件自由(有料)
吉城園 基礎データ

成立背景

大正8(1919)年 東大寺僧侶でありながら事業家に転身した正法院によって買収され、現在の建物が建設される。
昭和36(1961)年米軍に接収されていた本施設を、中山製鋼所が買収。
昭和58(1983)年奈良県による買収。
平成22(2010)年 離れの茅葺屋根の葺き替え工事が行われる
平成23(2011)年奈良県指定有形文化財に登録
平成26
(2014)年
尾田組による改修工事
令和4(2022)年隈研吾によるホテル化完成予定
吉城園 年表

施設利用案内

見学案内

  • 営業時間:9時~17時(入園は16時30分まで)
  • 休園日:毎年2月15日~28日
  • 入園料:令和2年4月より無料化
  • お問い合わせ:吉城園 Tel 0742-22-5911

茶室利用案内

  • 営業時間:9時~17時(入園は16時30分まで)
  • 休園日:毎年2月15日~28日
  • 利用料
    午前利用|12,560円(野点は15,080円)
    午後利用|14,660円(野点は17,600円)
    全日利用|25,130円(野点は30,160円)
  • 毛氈、ポット類、紅白幕等の備品貸出あり
  • お問い合わせ:吉城園 Tel 0742-22-5911

建築について

全体像

吉城園 配置図(案内用紙を元に筆者作成)
  • 東大寺と興福寺の間に位置する。
  • 東西に延びる広大な和風庭園が特徴で、主屋は敷地西側に、離れは敷地中央に、それぞれ位置する。
吉城園 見学入り口(以下写真は全て筆者撮影)
敷地北面道路より、見学入口をみる。(画面左手は、隣接する依水園入口。)
敷地北面道路より、二つの門を見る。
  • 北側道路には正門(薬医門)を構えるが、現在は使われていない。見学は正門左手の棟門からはいる。
  • 北東には吉城川を挟んで依水園が隣接する。

庭園

  • 敷地は、主屋に面する「池の庭」、離れ茶室に面する「苔の庭」、敷地奥に位置する「茶花の庭」で構成される。

池の庭

主棟縁側より「池の庭」蓬莱池を見る。
「池の庭」より、主棟を見る。
  • 敷地西側には、土地の高低差を生かした池泉式回遊庭園が広がる。
  • 蓬莱池の中央には中島を浮かべ、南端には糸落ちの滝組を配し、池北東の長径3mを超える大石を沓脱石や飛び石に用いた、大正期の大石趣味が見どころとなる。
  • 小高い築山には東屋が建てられている。
主棟南側、露路庭園。
  • また、主棟と居住棟の間には、細やかな書院式露地庭園が設けられている。縁側には月見台が設けられ、鞍馬石の大掛かりな手水鉢が備えられている。

苔の

「離れ茶室」より「苔の庭」を見る。
敷地東側より「苔の庭」を見る
「離れ茶室」南側の蹲
  • 敷地東には、茶室と対になる形で杉苔張の平庭が広がり、鞍馬石や灯籠が配置される。
  • その一角には鉄鉢型てっぱつがた手水鉢ちょうつばちを中心に、かけい、前石、湯桶石、手燭石てしょくいしからなる、本格的な蹲踞つくばいを設ける。

茶花の庭

「茶花の庭」
  • さらに敷地南奥には、茶席に添える草花が植えられた「茶花の庭」が広がる。

建物

主屋(座敷棟・玄関棟・主棟・居住棟・蔵)

  • 主棟は梁行11.1m、桁行28.7m。
  • 屋根の多くは入母屋造桟瓦葺である。後年の改修では庇の一部は腰葺屋根に変更された。
庭園より、座敷棟(右手)と玄関棟(左手)を見る。
  • 北側に座敷棟を配置し、唐破風屋根の車寄せをもつ玄関棟で主棟と繋ぐ。南側には居住棟や土蔵を設け、南北に貫く廊下棟でこれを接続する。
  • 玄関棟の車寄せは胴張りに几帳面取りを施した角柱に斗組を乗せる。床は石張りの四半敷で、天井は組入格天井舟底天井を切り返す。
  • 座敷棟は、菊の間と呼ばれる14畳の座敷に、二畳台目の茶室が付属する応接間である。
「池の庭」東屋より主棟を見る。
主棟縁側を見る
南側より、主棟を見る
  • 主棟には炊事場・女中部屋・帳場が連なる東側と、松の間(茶室)・春蘭の間・鶴の間などの饗応空間が並ぶ西側に分かれる。そのしつらえは、金具で彩られた違棚、花頭窓の付け書院、杢目の凝った卓版など。
居住棟の蔵部分を見る
  • 廊下を渡って続く居住棟には、竹の間雉子の間など、一段格式の低い座敷が並び、蔵に接続する。
  • 棟札から、施工は大正8年、棟梁は静岡県浜松の大工棟梁竹山仙吉であることが明らかになっている。

離れ茶室

「苔の庭」より「離れ茶室」を見る
「離れ茶室」を西側より見る
「離れ茶室」 玄関より内部を見る
  • 桁行19.5m、梁行15.2m。木造茅葺屋根を持つ数寄屋風の離れである。
  • 田の字状に並ぶ開放的な4室を中心とした雁行する平面を持つ。
茶室八畳座敷 縁側
  • 中央の4室のうち南東の八畳座敷は、縁側と布敷の土間、土庇によって苔庭に面し、また古材を転用した床柱と塗框を持つ。
  • 中廊下を挟んで南側には、三畳茶室と三畳台目茶室が並ぶ。狭い上に四方を壁で囲むため閉鎖的な印象を与えるが、網代天井化粧屋根裏天井など凝った作りも随所に見出せる。

参考文献