奈良の庭園を巡るならば、志賀直哉旧居や粉川家邸宅などが並ぶ高畑をめざすか、然もなくば奈良公園に隣接し和風大邸宅が立ち並ぶ水門町に足を向けるのが良いだろう。ここにとりあげる吉城園は、依水園、入江泰吉旧居に並ぶ奈良の傑作和風庭園である。
園内には戦前に建てられた大規模な主棟や離れ茶室のほか、池の庭・苔の庭・茶花の庭からなる複数の庭園がしつらえられている。
2022年には世界的建築家である隈研吾によるホテル化計画も進行しており、奈良巡りの重要な拠点として期待が高まっている建築の一つでもある。
目次
基礎データ
旧称 | 正法院家住宅 |
所在地 | 奈良市登大路町 |
施主 | 正法院寛之 |
施工 | 竹山仙吉 |
構造 | 木造平屋建 |
竣工年 | 大正8年(1919) |
見学条件 | 自由(有料) |
成立背景
施設利用案内
見学案内
- 営業時間:9時~17時(入園は16時30分まで)
- 休園日:毎年2月15日~28日
- 入園料:令和2年4月より無料化
- お問い合わせ:吉城園 Tel 0742-22-5911
茶室利用案内
- 営業時間:9時~17時(入園は16時30分まで)
- 休園日:毎年2月15日~28日
- 利用料
午前利用|12,560円(野点は15,080円)
午後利用|14,660円(野点は17,600円)
全日利用|25,130円(野点は30,160円) - 毛氈、ポット類、紅白幕等の備品貸出あり
- お問い合わせ:吉城園 Tel 0742-22-5911
建築について
全体像
- 東大寺と興福寺の間に位置する。
- 東西に延びる広大な和風庭園が特徴で、主屋は敷地西側に、離れは敷地中央に、それぞれ位置する。
庭園
- 敷地は、主屋に面する「池の庭」、離れ茶室に面する「苔の庭」、敷地奥に位置する「茶花の庭」で構成される。
池の庭
- 敷地西側には、土地の高低差を生かした池泉式回遊庭園が広がる。
- 蓬莱池の中央には中島を浮かべ、南端には糸落ちの滝組を配し、池北東の長径3mを超える大石を沓脱石や飛び石に用いた、大正期の大石趣味が見どころとなる。
- 小高い築山には東屋が建てられている。
- また、主棟と居住棟の間には、細やかな書院式露地庭園が設けられている。縁側には月見台が設けられ、鞍馬石の大掛かりな手水鉢が備えられている。
苔の庭
- 敷地東には、茶室と対になる形で杉苔張の平庭が広がり、鞍馬石や灯籠が配置される。
- その一角には鉄鉢型の手水鉢を中心に、筧、前石、湯桶石、手燭石からなる、本格的な蹲踞を設ける。
茶花の庭
- さらに敷地南奥には、茶席に添える草花が植えられた「茶花の庭」が広がる。
建物
主屋(座敷棟・玄関棟・主棟・居住棟・蔵)
- 北側に座敷棟を配置し、唐破風屋根の車寄せをもつ玄関棟で主棟と繋ぐ。南側には居住棟や土蔵を設け、南北に貫く廊下棟でこれを接続する。
- 玄関棟の車寄せは胴張りに几帳面取りを施した角柱に斗組を乗せる。床は石張りの四半敷で、天井は組入格天井と舟底天井を切り返す。
- 座敷棟は、菊の間と呼ばれる14畳の座敷に、二畳台目の茶室が付属する応接間である。
- 主棟には炊事場・女中部屋・帳場が連なる東側と、松の間(茶室)・春蘭の間・鶴の間などの饗応空間が並ぶ西側に分かれる。そのしつらえは、金具で彩られた違棚、花頭窓の付け書院、杢目の凝った卓版など。
- 廊下を渡って続く居住棟には、竹の間雉子の間など、一段格式の低い座敷が並び、蔵に接続する。
- 棟札から、施工は大正8年、棟梁は静岡県浜松の大工棟梁竹山仙吉であることが明らかになっている。
離れ茶室
- 中央の4室のうち南東の八畳座敷は、縁側と布敷の土間、土庇によって苔庭に面し、また古材を転用した床柱と塗框を持つ。
- 中廊下を挟んで南側には、三畳茶室と三畳台目茶室が並ぶ。狭い上に四方を壁で囲むため閉鎖的な印象を与えるが、網代天井や化粧屋根裏天井など凝った作りも随所に見出せる。
参考文献
- 国立文化財機構奈良文化財研究所 編『奈良県の近代和風建築 : 奈良県近代和風建築総合調査報告書』奈良県教育委員会、2011。