この記事では、
- 破風(唐破風・千鳥破風)
- 懸魚(梅鉢懸魚・猪目懸魚・唐破風懸魚)
について、奈良の和風建築を題材に解説していきます。
目次
破風とは
破風とは,切妻屋根などの妻面に生じる、三角型・人字型の屋根の側面部分を表す言葉です
構造上、寄棟屋根や宝形屋根には存在しませんが,切妻造や入母屋造の屋根の妻側には必然的に存在する部位で,妻壁や破風板などの妻飾りも含めて,建築の印象を大きく決定づける重要な部分となっています.
上の写真の様に、装飾的な飾りが施されたり、額が掲げられることも多いように、建物の顔となる部分と言えるでしょう。
千鳥破風とは
屋根の端部ではなく、屋根の平側にドーマー窓のようにつけられた切妻造の屋根を、千鳥破風とよびます.
屋根の途中に設けられた破風であれば、その形状や規模によらず千鳥破風となります。
千鳥破風のある建物は、部屋の平面が単純な矩形(長方形)でない建物や、出窓や玄関口などが複数あって屋根構造が複雑な建物になることが多く、建物の外観に大きな影響を与えます。
奈良の近代建築での利用例としては,旧奈良県庁舎や奈良県立戦捷記念図書館のように,正面玄関の真上に当たる屋根に千鳥破風を設けることで,建築全体の対称性や中心性を強調した事例が挙げられます.
唐破風とは
破風の中でも、中央部に起り端部に照りをつけた曲線的な破風は唐破風と呼ばれます.
奈良県には現存する最古唐破風を持つ石上神宮の摂社出雲建雄神社の拝殿があるほか,近代建築でも奈良県物産陳列所や吉城園の車寄せに用いられるなど,幅広い利用例が確認できます.
懸魚とは
懸魚とは、社寺建築によく見られる、破風 の内側に取り付けた棟木や桁の先を隠すための、スペード♤のマークをひっくり返したような装飾板です。
現存するものでは鎌倉時代のものが残りますが、風雨に晒され損傷しやすい部位であることと、記録上は古くから存在することから、中世以前にも用いられていたと推測されています。
板の輪郭には、蕨手と呼ばれる巻き込むような曲線模様がよく採用されます。
時代が下るにつれて蕨手の数も増え、装飾も複雑になる傾向があることから、建築や屋根の年代推定に用いられます。
例えば室町時代には、板の外周をオフセットさせた曲線を彫り込む覆輪と呼ばれる技法が流行しました。
また、板の中央には棟木や桁の小口を隠すためと思われる六葉模様と呼ばれる六角形の飾られることが通例でしたが、時代によっては三葉・四葉・八葉などもありました。
拝懸魚・降懸魚
懸魚のつけられる場所は、勾配屋根の先端に当たる部分につけられる場合と、勾配屋根の中途につけられる場合があります。
これらはそれぞれ、屋根の棟木と桁の端部を隠す位置に当たります。
前者を拝懸魚、後者を降懸魚と呼びます。
唐破風懸魚(兎の毛通し)
また、通常の破風に設けられる懸魚に対して、唐破風屋根に用いられる懸魚のことは「唐破風懸魚」もしくは通称として兎の毛通しと呼ばれます。
この通称の由来は今のところ不詳です。
基本的には頂点部分の納まりが異なるだけで、その模様や下部の輪郭は普通の懸魚のものが踏襲されます。
奈良県物産陳列所や、奈良県立戦捷記念図書館など、唐破風屋根がある和風建築であれば、近代建築でも取り入れられている意匠です。
ここからは、懸魚の代表的なデザインである
- 梅鉢懸魚
- 蕪懸魚
- 猪目懸魚
- 三花懸魚
について紹介します。
梅鉢懸魚とは
梅鉢懸魚とは六角形に近い形を持つ懸魚の一種です。
最古の例は長野県釈尊寺観音堂厨子が確認されており、後述の猪目懸魚と並んで古くから利用されているものと推定されています。
蕪懸魚とは
蕪懸魚は、人という字のような模様を積み重ねてできた懸魚で、最もよく見られる懸魚のデザインです。
猪目懸魚とは
猪目、すなわちハート型にくり抜かれた彫刻のある懸魚のことです。
古くから火除け・魔除けの意味が込められている模様で、鎌倉時代以降確認できる非常に息の長い懸魚の形とされています。
奈良の近代建築では、奈良県物産陳列所と、それを模倣して作られたとされる奈良県立戦捷記念図書館に用いられています。
三花懸魚とは
蕪懸魚や猪の目懸魚を、左右にも取り付けることで蕨手の曲線をよる複雑により豪奢にしたものを、三花懸魚と呼びます。