このページでは日本建築の外壁仕上げ、つまり建物の内と外を仕切る壁について
- 大壁
- 真壁
- 下見板張り
- 海鼠壁
などの単語を、奈良の建築を事例に紹介します。
目次
概要
日本建築の外装材としては、伝統的なものとしては板壁、石壁、土壁、漆喰壁などが挙げられます。
明治、大正時代になると、こうした土壁・漆喰・板・石に加えて煉瓦が用いられはじめ、第二次世界大戦後はさらにコンクリートや石膏ボードなど現代でも馴染み深い材料が使われ始めました。
壁と柱
煉瓦積みや石積みによってしたから順に積み上げていく西洋建築に対し、日本建築の外壁はまず柱があり、その間を埋めるようにして作られる非耐力的なものである点が特徴的です。
よって日本建築の外壁は、この柱となる木材を見せるのか見せないのか、見せるならば柱以外の部分はどの様な材料をもちいるのか、見せないとすればどのような材料で隠すのか、という点が重要になってきます。
真壁とは
柱を用いた壁のうち、柱材を表面に露出する壁を真壁と称します。
日本では古代より寺院建築・邸宅建築で幅広く用いられてきた手法であることから、後述の大壁より格式高く伝統的な印象をうけるのではないでしょうか?
構造材を表面に露出しているため、雨風や経年劣化には若干弱く、また構造材料にも見栄えのいい材料・加工法を用いる必要があることから、施工の難易度や予算は大壁造より大きくなります。
場合によっては、板状の部材を元の柱や大壁仕上げの壁に上から取り付けて(付け柱)、真壁風の外観に見せることもあります。
旧奈良県庁舎
奈良県の近代建築には、寺院建築や書院造から着想を得た折衷建築が多数存在します。
こうした建築には、
- 木造漆喰塗りの真壁造(に模した外壁)
- 寺院風の桟瓦葺屋根
- 連続する縦長の上げ下げガラス窓
- 左右対称性が高く、中央には車寄せを設ける
といった真壁風の外観が共通しており、奈良公園周辺の「奈良らしい・古都らしい景観」の形成に寄与しています。
大壁とは
柱材を使う建築でありながら、外装材柱によって柱を覆い隠してしまう壁のことを、真壁に対して大壁と称します。
日本建築では、
- 城郭建築の外壁や都市部の町家・蔵(火災や湿気から構造材を守るため)
- 庶民の建築(施工が簡単でコストも低いため)
- 数寄屋建築(庶民建築を模した趣向が取り入れられたため)
など、実用的な理由で採用されることも多く、どちらかといえば格式の高い建築空間には用いられない工法と言えるでしょう。
建築によっては、一枚の壁の外側を大壁にしつつ、内装部分は柱を見せるなど工夫することによって、それぞれのメリットを活かすこともあります。
その他近代建築では、伝統的な工法に基づいた木造建築でありながら外観を西洋風にする際に、モルタルなどで大壁造とするケースも見受けられます。
奈良警察署鍋屋連絡所
木造建築でありながら、大壁造にすることで西洋風の外観を生み出す事例として、きたまちにある旧奈良警察署鍋屋連絡所が挙げられます。
一見石造の様に見える外壁ですが、実際は御影石の基礎に木軸構造。
そこにセメントモルタル仕上げで柱・梁・巾木を模した凹凸をつけ、西洋風に仕上げています。
ちなみに内部も、和室部分も含めてすべて漆喰によって塗り込められており、一見して木造とはわかりにくい内外装になっています。
奈良県物産陳列所
また、奈良公園敷地内にある奈良県物産陳列所は、外から見た限りでは真壁風の外観ですが、内部はすべて漆喰で塗り込められた真っ白でフラットな内壁となっています。
外壁仕上げについて
つづいて、日本建築の外壁仕上げのうち、とくによく見られる
- 下見板張
- なまこ壁
について解説します。
下見板張とは
下見板張とは、横に長い板材を階段状に重ね、押縁で固定した外装仕上げのことです。
階段上に張ることで雨水の浸透を防ぐ効果が狙え、また取り外しがしやすくメンテナンスもしやすいことから、海沿いの民家などで比較的よく見られる外壁といえます。
また、上図のように板の固定方に応じて
- 板を上から角材(押し縁)で押さえたものを押し縁下見
- 階段状に切り込みを入れた押し縁で押さえたものを簓子下見
とそれぞれ称します。
長壽會細菌研究所
旧南都銀行手貝支店
海鼠壁とは
海鼠壁は、土蔵などに用いられる日本伝統の壁塗りの様式です。
平瓦を壁に四半目地・馬目地状に並べ、瓦の継ぎ目に漆喰を蒲鉾形に盛り付ける工法で、耐火・防水に非常に強い仕上げといえます。
海鼠壁の建築物が密集する集落は岡山県倉敷市倉敷美観地区をはじめ全国的に点在し、黒字に白のチェック柄という非常にインパクトの強い外観から各所の観光資源となっています。
大和文華館本館
奈良県をはじめ、近畿圏ではあまり採用されない工法ですが、大和文華館にこれを模した外壁が採用されています。