床の間は、近世以降の日本建築において非常にシンボリックな存在とも言える空間であり、和風住宅建築を楽しむ上で、絶対に見るべきとも言える重要な部位となっています。
このページでは、床の間を見る上で不可欠な知識である
- 床柱
- 相手柱
- 落掛
- 床框
などといった、床の間における部位の名称や
- 框床
- 吊床
- 室床
といった床の分類について、奈良の和風建築を題材に解説していきます。
目次
○床の間とは?
一般に床の間は、
- 床(掛け軸を飾る空間のこと)
- 棚(床に隣接して設けられる、棚や収納を持つ空間のこと)
- 書院(床に隣接して設けられる、縁に面した障子周りのこと)
で構成されるものが最も定番・正式な床の間とされています。
しかし、建物の中でも主要ではない部屋の床の間であったり、より簡素であることを求めた床の間の場合、書院や棚を省略することもあります。
そのため、より狭義の意味での床の間とは、こうした棚・書院を省いた「掛け軸や花などを飾る空間」のみを指すこともあります。
よって「棚(脇床)」や「書院」については別途下記の記事にて解説することとし、この記事では掛け軸を飾る空間である「床」について紹介します。
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床(床の間)の構成要素
多種多様な種類を持つ床ですが、最も正式とされる床は
- 床柱
- 床框
- 落掛
の3つを備えているものであるとされており、これを「本床(框床)」と称します。
床柱・相手柱とは
床柱とは、床の間の脇に立つ象徴性の強い化粧柱のことです。
柱とはいうものの、屋根や天井を支えると行った構造的な役割は担っておりません。
床柱はむしろ、床や座敷空間を特徴づけたり、家主の権威性や趣味性を表現するシンボリックな役割を果たす物となっています。
書院造りの座敷ではさほど床柱を強調することはありませんが、数寄屋建築の茶室などの侘びた空間では、このより強く見受けられるようになります。
そのため数寄屋建築の床柱には、座敷内の他の柱とは全く異なる樹種や加工法が採用されており、高価な銘木・変木が用いられることも稀では有りません。
奈良の和風建築においても、赤松・北山杉・椛などさまざまな材を用いた床柱が見受けられます。
一方で床柱は必ずしもすべての床の間にあるわけではなく、場合によっては省略されることもあります。
ちなみに、床柱と反対側の壁に用いられている柱は「相手柱」とよばれます。
床框とは
玄関や床の間など、床が一段高くなっている際にその隙間を隠す板材を「框」といいます。
中でも床の下部に配置する、段差の側面を化粧する部材を「床框」と呼びます。
床の間において框の存在は、けして目立つ部位とは言えませんが、黒漆塗の格式の高いものから、皮付きの丸太を用いた崩したものまでさまざまなバリエーションが有り、家主のセンスや職人の工夫が光る部位となっています。
一方で時代が下るに従い框は姿を消すようになり、茶室の床や小規模な床では床の間の段差を省略するのがこのまれました。
床框には皮付丸太(図版出処:岡田撮影)
床と畳が面一になり、框がない(図版出処:岡田撮影)
落掛・小壁とは
床柱と相手柱の間をつなぐ横架材を落掛といい、それが受ける垂れ壁のことを小壁と称します。
床の間の左右を担う木材が「床柱・相手柱」であり、床の間の下部をフレーミングするのが「床框」とすれば、床の間の上部、を担うのが「落掛」と言えるでしょう。
床柱や床框と同じく、さまざまな形状や樹種の木材が用いられます。
床の様式
すでに紹介してきたとおり、床の間は床柱・床框・落掛を備えたものを正式なものとしながらも、様々な形でそれを変形・省略した様式のものが存在します。
以下、代表的な形式のものを、奈良の建築を引用しながら紹介します。
台目床
床の間の畳に台目畳(長さが通常の畳の3/4しかない畳)を用いる床のことを台目床と呼びます。
踏込床
床に段差を設けず、畳面と床板の高さを同じにする床の間を踏込床とよびます。
床框がなく、より質素な印象を与えます。
室床
床の内側の柱や廻縁が見えないように、三方の土壁や天井と合わせて塗り込めた床の間を室床と呼びます。
室床は、利休作と伝えられる妙喜庵「待庵」でも用いられていることで有名です。
釣床
床柱も床框もなく、床の間の上半分のみを残したような床の間を、釣床と呼びます。
この場合、途中で切られた床柱に当たる材料を釣束と呼びます。
実際の建築を見に行く
ここで紹介した床の間は、すべて奈良市にある下記の近代和風建築にて見学可能となっています。
(2021年現在、基本的に通年かつ予約不要で見学可能。)